もう一つの貴重な体験は「研究助成」でした。大学からの研究費は研究室単位で経理をされており、だいたい学部生、院生の人数割となります。Y教授の研究室は院生が多いので比較的多くなります。その代わり学部生がいないので私の時は1年2年で11人分でした。それが何万円になるかは分かりません。ただ、1人何万円かあったとしてもそれがそのまま自分の研究に使えるわけではありません。コピー代や印刷費、共用の消耗品もそこから払うので何かを買ってもらうことはほとんど無く、多分誰も自分の研究に関するお金は自分で払っているでしょう。顕微鏡が要るとか、試験管やシャーレが割れて買わないと…とか、薬品も当然要ります。そう考えると理科系の大学院生はかなり自費で研究をすることになるでしょう。学会に必要な資料も交通費ももちろん自分持ちです。まあ、教員としての給料はもらっているので、生活に困窮することは無さそうですが、必要経費はかなりかかります。
そんなとき、1つ上の先輩が「グラントをもらうから自分はいい(自分の研究の費用はそこから出す)」と言っていました。「グラント」の意味が分かっていなかったのですが、それが「研究助成」のことのようです。科研費と呼ばれる国からの研究助成もあれば財団を作ってその利子から研究費を支援してくれる方もおられます。調べると国内にはかなりの研究助成をしてもらえる団体があるのです。普通に教員をしていたら全く知らない世界です。
研究テーマも決まり、書籍の仕事を頑張ってしていたらまたも教授がのぞいてくれました。「○○さん、研究助成とってみる?」。どうやら先輩の言う「グラント」のことだとすぐ分かりました。「通ればラッキーだから、とりあえず、○○さんの研究でここの用紙に記入してできるだけ詳しく必要なものを書いておいて」。実際何が必要かは分かっていないのですが、言われるように経費について書き、研究の意義、効果など分かったように長文の作文をしました。「明後日までによろしく!」。出た、また永ちゃんの登場です。
どうやったら通るのかも分からず、いろいろ経費を書いて、この研究をしたら日本の理科教育はこんなに良くなる…なんてあり得そうにも無いことを並べながら、何とか期限に間に合いました。今のようにネットで即申請では無く、きちんと封筒に入れてその財団に送ります。速達で送り結果は3ヶ月後に分かります。
3ヶ月も経たずに教授から「○○さん、研究助成通ったよ」の連絡がありました。あまり分かっていなかったのですが、教授はその財団の理事もしており、早くに分かったようです。「4月には振り込まれるから」。と言われ、本当に個人口座に振り込まれていました。金額はかなりの額です。これだけあると研究室の経費は何も要りません、自分で自分に領収書を切ってそれを報告できるようまとめる作業をします。
かくして研究についてお金の不安は無くなりました。この研究は2年間行うことにしたので次の年も申請し、通りました。それが縁で、現場に帰ってからも科研費も通り、別の財団も、コンテストも通って比較的潤沢に研究費はいただけました。大学教授でも今は自分で研究費を申請して他からいただく時代だと言うことです。思いもよらず、こんなサジェスチョンをいただいたことでその後の教員生活で23もの研究費をもらうことができました。報告はかなり大変ですが、毎年のルーティンだと思えばそう気になりません。大学院に入ったからこそ、Y教授に出会ったからこそ得られた貴重な体験でした。


コメント