大学院在学中に「もっと面白く」なったことについてはいくらでもあるのですが、ここでは大きく2つ紹介します。それらは決して研究をしたり、論文を書いたり、学会で発表したりすることのみではありません。しかもどちらも決して働き方改革には関係しないのですが、自分が単なる「教員」だけではなく、別方向の可能性を示唆される出来事でありました。
1つめは書籍出版でした。M出版社から担当教授(Y教授)が監修をする自然と科学の活動をまとめたノウハウ本ですが、全10巻ですでに著者は決まっていました。10巻同時進行で原稿が送られてきては監修者が手直しして再提出させる作業が続いていました。1年生の後半、そろそろ先輩2年生の修論提出そして発表会が迫っている緊迫した空気感漂う11月頃のことです。いつものように「○○さんちょっと相談があるんだよ」とY教授に言われました。「環境教育について卒業生の△△さんに頼んでいるんだけど、どうもなかなか書けないようなんだよ」。雑誌の原稿かと思い、「まあ何とか書きますよ」簡単にオッケーしてしまいました。せいぜいA4で2~3ページくらいのものでしょう。雑誌の原稿執筆くらいなら何度かしたことがあったので資料を探して自分の実践を少し書けば期待に応えられるとも思いました。「ううん、じゃあ今月中ね。120ページほど1巻丸々だから」。このときは本当にのけぞりました。納期は1ヶ月、環境教育に関する子どもの活動・科学遊びをテーマごとに分け、イラストも込みで80~90ネタ、120ページくらいをわずか1ヶ月で完了するようにとの指示なのです。「まあ○○さんならできるよ。○○さんの修論の資料にもなるんじゃない。大変だけど、よろしく」またも永ちゃん登場です。
かくして私はみんなが修論のデータ集めや資料収集に勤しむ1年生の11月12月を本当に机の上だけで過ごす日々を送りました。講義も出ていましたし、自分が行う幼年教育の講義も残っていました。大学で8時間、家でも5時間くらいは机に向かい原稿を書き、イラストを描き続けました。本当に人生で一番机に向かった気がします。なんだかんだ言って12月半ばで大丈夫でしたが、ようやく原稿が書け、もう1人の監修者(別の大学で美術の教授でした)にも見てもらえてオッケーが取れました。元々入学前に研究したかった子どもベースでの環境教育への環境作りについて実践や資料集めなどをすっ飛ばしてなんと書籍で結果を出してしまったのです。
ふらふらで原稿を書き終え、「先生、できました」と届けてゆったりとゼミ室でコーヒーを飲んでいたら、教授が研究室からやってきました。「○○さん、よくできているよ。出版社も間に合って大喜びだよ」。めずらしくねぎらいの言葉をいただきました。ところでこのシリーズに「自然遊び」の巻があるんだけど、その執筆者も原稿が全く進んでいないみたいなんだよ。○○さん、やれる?」。コーヒーが吹き出ました。すでに送られてきた原稿を見て、これに追加したらいい…ということでしたが、まあ1冊目よりかなりハードルは低くなっていました。これから修論発表会に向け、1年生として練習に付き合って深夜になることもあるそうでしたが、そんなことはお構いなしです。イラストを学部生の女性が描いてくれることも決まっており、原稿に集中できそうでした。自然遊びは元々自分が遊んできた内容も入れられるのと、これこそが体験中心のカリキュラムを組もうとするまさに修論に関連する内容だったため、この執筆は資料集めも含めて無駄にはなりません。何よりもこれから100ページ以上の論文を書こうとする前に執筆と言うことについて大いなる練習になりました。お金を払って作文を読んでもらうのです。いい加減な文章を書くわけにはいきません。
かくして3月末までこの自然遊びの原稿執筆と編集に追われ、本当の意味での修論のスタートはさらに数ヶ月さきになりました。本は10巻そろって発売となり、初版が出たのはそこから数ヶ月経った10月末でした。でも在学中に2冊の単著の著者となり、その後の著述活動の原点となったことは言うまでもありません。まさかそのときの出版社の編集者との関わりで32冊の著書を出そうとはまさかこのときに思ってもいませんでした。
次回はもう1つの大きな出来事です。お金に関することです。


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