2年間の大学院生活を終え、もともといた現場の中学校に戻ってきました。4月1日に出勤です。所属は変わらないので辞令交付はありません。職員室に行き、挨拶しました。校長も今年新しい方になられるので辞令で挨拶はできませんでしたが、午後には来られ、校長室で挨拶と相談です。
「みや先生、大学院でしっかり勉強して帰ってきたところ、悪いんだけど、学校全体の生徒指導担当になって欲しいんだ」。校長の提案はこうです。校長は著述で大変有名な方で尊敬していました。また、娘さんがおられ、バスケットボール部で監督をしていたのでよく知っていました。小学校校長を2校されており、58歳の今年、初めて中学校に転任。多分現役最後の学校でしょう。
「中学校のことは僕はよく分からないから生徒指導を教えて欲しい」。大変謙虚な方です。でもこの2年間に学校はかなり様変わりしていました。噂は耳に入り、可能なら計11年も勤めたので、復職と同時に異動があればないいなんて思っていました(かなり甘い考えです)。
しかし現実は甘くなく、大学院の2年間で習った体験中心の理科学習など何の屁のツッパリにもならないこれからの毎日が迫ってきます。1年2年と持ち上がりし、担任頭として意気盛んに関わっていた子どもたちは生徒らがとてつもなく問題を起こし、指導に困難を極めていたときに入学した2つ下の生徒らもそれに負けないくらいルールを乱し、法を犯し、大人に盾突き「明日が来なかったらいいのに」とまで思うくらい困難を極めた日々だったそうです。その1年後も今までリーダー的に育っていた子が教員に反目し、髪も服装も態度も言葉遣いも1日で変わり、それについていく子も次第に増え、どの学年を担当しても問題行動は毎日起こり、生徒指導担当はあちこち走り回る日々でこの3年で3人交代。そして私が担当することになりました。弱冠33歳。このエリアでは一番若い生徒指導担当となりました。
授業は理科を10時間だけ。選択教科が週に1回あり、2年生3時間×3回の授業です。コマ数的には32コマあるので残りの22時間は問題行動対応と言うことでした。2年前に入学した生徒たちが見事に成長し、ビーバップハイスクールを見るような様相、女子は女子でルーズソックス全盛で化粧にピアスは当たり前。不純異性交遊などと言うやわな言葉で表せないくらい、いろいろなことをやってくれました。喫煙、飲酒、無免許運転、深夜徘徊、暴行、傷害、不同意性交など放火と殺人以外何でもありの状態。これはさすがに困りました。
何人かの男子中学生の中にはやはりトップの生徒がいました。1年生の時からもう体も大きく、喧嘩っ早く、何にしても目立ち、指導に大変困ったKがいました。Kの1年2年の状況については伝え聞くだけで実際に私は直接知るよしもありませんでしたが、やはり生徒指導という係になったことでとりあえず「ごあいさつ」に私が常駐する生徒指導室にやってきました。特に悪態をつくわけでもないでしょうが、本当に顔見せです。「ミナミの帝王」で萬田銀次郎が相手の事務所に顔を出し、その場で交渉する訳でもない「以後よろしゅうに」というあいさつのように見えました。もちろん、同等にいかつい生徒も、その2番手、3番手の生徒も変わるがわる「以後よろしゅうに」は続きました。大して授業はしませんが、本当に疲れる毎日でした。
強面でもなく、とりたて強めの指導が得意な訳でもない私が、これらの生徒と対峙しようとすると、何かやはり策を練らなくてはなりません。一応、誰もがやりたくない仕事をする訳なので、33歳と平均年齢よりも若い者の言うことはみんな聞いてくれます。案を出せばとりあえず「反対」は無さそうです。
私がとりあえずやったのは、喫煙やエスケープを防ぐための立番の励行だったのです。校内パトロールです。私は1週間で授業を10時間程度すれば良いので校内(時には校外も)パトロールをしっかりする余裕はあります。でも他の教員は週20コマくらいは普通にあるので大変です。唯一の空き時間をパトロールに費やす‥ということなど日常茶飯事でした。喫煙現場のトイレ前や体育館裏、4階の奥などあり得そうなところは必ず大人の目があるようにします。
校外に出てエスケープも平気でするので校門付近やグラウンドから抜け出したり、技術室奥など危険地域にも人員を配置します。それを休み時間ごとに組み、その後授業中に抜け出しても対応できるよう空き時間の教員で対応します。これを毎朝、職朝で「本日のシフト」として組んで印刷し、朝一の机上に配布するのが私の一番の仕事でした。「2階男子トイレ」「3階男子トイレ」「校門付近」「体育館裏」「グラウンド出口」など喫煙やエスケープ現場が発見されたらすぐにそこを強化します。シフトについた担当教員から毎日連絡が入るのでそれを報告する意味も含めて「本日のシフト」を作り、生徒指導室でプリントアウトします。これが一番の仕事でした。ほんの小さなことですが、これを続けることで劇的ではないですが、確実に少しずつの歩みではあっても問題行動は減り、落ち着いた学校生活が送れるようになってきました。
半年後には喫煙を諦めたり、エスケープをやめて仕方なく授業に入る当該生徒も多くなりました。着実に向上していこうとする学校ですが、2学期のこうはん、大きな事件が起こり、私にも不測の事態が発生することとなりました。それは次号に。


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