⑲生徒指導担当倒れる

教師として考えること

 怒濤の1学期を過ごし、運動会も終え、少しずつ平和な雰囲気を醸し出す日が続くこともありました。このまま争いごともなく安定した学校になればいいなと思っていましたが、水面下ではかなりの出来事が起こっていました。
 夏祭りのパトロールに出かけたとき、最も指導の必要な生徒が特攻服を着て校区内の有職少年のグループに入り、警察とひと悶着を起こしていました。深夜徘徊や不純異性交遊を指導する…なんてレベルではなく、集団でパトカーをひっくり返すのではないかと思うような勢いでした。さすがにこれは我々教員の手出しができる状況ではありません。有職少年にはここ数年の卒業生もおり、声かけ程度はしましたが、警察にあまり近づかないでくださいと言われるくらいで遠目から見ることしかできない自分が情けなく思いました。テレビドラマで見るようなシーン(先生が引っ張って家庭に返す)にはならないですよね。
 警察も出ているのでここは退散…と無力感に襲われながらも引き下がるしかありません。翌日の新聞にも出ていなかったのでそれ以上の大事にはならなかったのでしょう。

 しかし、このときを契機に要指導生徒と有職少年のつながりは強くなり、直接ではないにしろ、中学生が大きく関わる事件に発展していきました。

 1学期にあまりなかったお金に関する借り入れ、脅し、カツアゲ等の件がいくつも上がってきました。金額は500円からありましたが、大金だと数万円まででした。とにかく人数が多いのです。要指導生徒が借りまくっていたり(もちろん踏み倒し)、靴を買わせたり、携帯電話の支払いをさせたり(30年前に中学生が携帯所持です)、現金を持ってこさせたりとなりふり構わずお金を集めているのです。あちこちの保護者から訴えがあり、それをまとめていかなければなりません。そんなときにも事件は起こります。吸い殻があったり、暴力事件があったり、授業エスケープもひどくなってきました。日中はもちろん授業、校内パトロールと事情聴取や指導、放課後は警察に出向いたり、店舗に情報収集。深夜になって次の日の「本日のシフト」作成そして、これらのお金の借り入れ等に関するまとめです。

 どうやら有職少年グループの幹部が交通事故を起こし、その弁済や補償にお金が必要になり、他の取り巻きも含めて要指導生徒にもその割り当てが来ているらしいのです。要指導生徒としてもここできちんと貢いでおくとあとあとグループ内の立場が良くなるのでしょう。他の有職少年は即犯罪ですが、中学生だとそこまでいかないと見ているのか、集金力は決してグループ内で見劣りするものでは無かったようです。

 お金が介在することなので金額やそこに至る経緯はきちんとしておかなければなりません。でも貸した側も安易に貸すのも問題があり、保護者も自分で動かなかったり、指導しなかったり、長く放置したことも責任があります。誰1人として警察に通報もせず、金額によっては泣き寝入りもする予定だったということで、それ相応の責任も感じてもらいたいと思い、緊急被害者の会を開催しようと思いつきました。その資料作成に何日も徹夜の日が続き、あろうことか、保護者会開催予定日の前日に、生徒指導室で意識を失い、倒れてしまったのです。気がついたら校区内にある総合病院のベッドの上でした。どうやら救急車で運ばれたようです。点滴を打ち、家内に車で迎えに来てもらいました。次の日の昼までベッドで伏せっていましたが、何とか立てるようになり、少しは食事もできました。

 情けないことです。でも学校側は大慌て。保護者会の資料もすべて私が持っていて、しかも印刷できるものでは無いので、話す内容はすべて頭の中なのです。3年生の学年生徒指導担当が代行すると言っていましたが、どうもなかなか難しいようです。まあ動けるので、夜なら出て行こうかと思っていたそのときに、電話が鳴りました。その当人、要指導生徒からです。電話に出るのも変なのでそのままにしておくと留守電が入っていました。
「先生、たおれんなよ。無理しすぎだ。気をつけてくれんとおれら困るから」。まあ何とも自分の責任も感じず、勝手なことを言います。「お前のためにこんなことになってるんだ」と言い返したいところですが、それでもほんの少し可愛さを感じるのが私の至らないところなのでしょうか。

 自分と本気になって対峙してくれた先生が倒れた。悪いなと思いつつも、そんなことは口に出せない、精一杯のねぎらいか…なんて都合良く解釈しました。

 19時に緊急被害者の会です。家内に送ってもらってヨレヨレになりながら参加。職員もみんな残って待っていてくれました。会議室には当該生徒の保護者が十数人着席していました。「生徒指導倒れる」そんなニュースを子どもからも聞いていたのでしょう。「先生、大丈夫ですか」「無理をしていただき申し訳ないです」そんな温かい言葉もいただきました。

 保護者の中には学校の対応を苦々しく思っていた人もおられるはずです。自分たちが何もしないのに学校がもっとしっかり指導すべきだなど矛先を学校に向ける気持ちで来校された方もあると聞きます。でもヨレヨレの生徒指導担当を見て、そんな思いも消えたようです。非難の目は学校には向かず、みんなで対応策を考えようということになりました。被害状況はまとめたものと寸分違わず、とても感心していただきました。でも責任は被害者家庭にもあるということで全額を返してもらうことは思わないでください。半額返ったら良しとしましょう。でもその半額をは返すことで要指導生徒とその保護者にも責任を感じてもらうことにします。そして全員で警察に被害申告をします。暴行、恐喝で事案をあげ、民事では学校が可能な範囲での対応をします。

 要約はこんなものです。倒れたことで話は容易にまとまり、結束もしました。そこから半年間で何とか半額を集め、回収し配分することができました。要指導生徒は決して大人しくなったことではありませんが、悪いことをしたら警察にいくことになる、責任をとらなければならなくなる。それを教えることができたのが一番大きなことでした。

 ようやく怒濤の生徒指導担当1年目を終え、少しはゆったりとした気持ちで2年目を迎えることになりました。

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